SaaS導入時の苦労にカスタマーサクセスはどう向き合うか

  • ユーザーが導入前に感じるベンダーとの調整の苦労とその対策
  • ユーザーが導入時に感じる運用整備時の苦労とその対策
  • ユーザーが導入時に感じる社内巻き込みの苦労とその対策

はじめに

みなさん、こんにちは!
先日、Coral Capitalさんが、今年の「カスタマーサクセス白書2022」を踏まえ、以下のまとめ記事を出されていました。

Coral Capital

HiCustomer株式会社が、「カスタマーサクセス白書 2022」を公開しました。最新の白書では、新たにSaaS導入企…

レポート自体は、もっとボリュームがあるものではあるのですが、今回は公表されている箇所で取り上げられていた「 SaaS 導入時のユーザーの苦労」について、筆者なりの考えをまとめていきます。

ユーザーは、SaaSの導入に苦労したと感じている

個人的に、今回のレポートで気になったのは、以下の一節です。

SaaSのシステム導入に関わった人に「直近で行ったシステム導入の苦労度」を聞いたところ、「非常に苦労した」は15.5%、「ある程度苦労した」は27.8%でした。

一般的に、従来のオンプレシステムよりもSaaSの方が導入しやすいと言われる中で、実際にはSaaSもユーザー側に「導入に苦労した」と感じさせているのだなと改めて事実を突きつけられた形です。

もちろんベンダー側からすると、ユーザー側で一定のアクションが必要なのは当然のことなので、ある種の諦めも必要かなとは思いますが、少しでもユーザー側の体験を向上すべく、レポートで取り上げられた項目に沿って、対策を考察していきます。

「導入前のベンダー/営業担当との調整」の苦労

SaaSのシステム導入経験者が苦労したポイントで最も多く挙げられたのは、「導入前のベンダー/営業担当との調整」(17.9%)でした。

ここは、主にセールスチームとのやりとりが中心になるため、カスタマーサクセスが通常手当てできるポイントは少ないように思われます。

もっとも、人間の認識は、特に印象深い出来事、またはプロセスの最後に生じた出来事によって形作られることが多いとされています(いわゆる「ピーク・アウト」の原則)。

本レポートの結果から考えると、「苦労した」回答者の一部には、受注最終盤の段階で、「細かいことは導入後に話しましょう」などとセールスチームから言われて導入後の流れや進め方について、欲しい答えが返ってこずに時間を要し、「苦労した」と感じた方もいるかもしれません(もちろん本当に導入後に話したことが良いことも多いですが)。

もしそうした方が少しでもいるようであれば、導入直前であっても、カスタマーサクセスが打ち合わせに同席して、スムーズに導入以降のプロセスを説明することによって、最終盤の印象を変えることは可能でしょう。もちろん、こうした対応を全ての顧客に対して実施するのはリソースとの関係で困難なので、特に情報を事前に知っておきたい、SaaS導入に若干の不安感を感じる、といった顧客に限ってセールスチームの判断で実施するのが良いでしょう。

事前の引き継ぎもしっかりやりたい

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「導入作業中の導入に関わるメンバーの調整」等の苦労

「非常に苦労した」と答えた30人だけに限定すると、(中略)「導入作業中の導入に関わるメンバーの調整」「導入後のシステム運用ルールの整備」(ともに15.7%)や「導入後の社内利用部門/メンバーへの啓蒙・巻き込み」(13.9%)のほうが多く、対ベンダーよりも対社内の調整にペインを感じる人の多さが伺えます。

導入中のペインなので、ここはまさにカスタマーサクセスが関係するポイントです。

引用元の記事にもあるとおり、この社内調整に関する課題感は、これだけで「非常に苦労した」という回答に振れてしまう重要なファクターとであるように思われます。逆に言えば、ここをすんなり克服できれば、導入プロジェクト全体として、そこまで苦労しなかったものと認識してもらえる可能性が高まります。

私も顧客とやり取りをしていく中で、社内の他のメンバーも巻き込んでプロジェクトを推進する場合にいくつかのコツが存在すると考えています。以下ご紹介する4つのポイントは、カスタマーサクセスチームが取りうる手段としてご紹介します。

「導入後のシステム運用ルールの整備」においてCSMができること

ベストプラクティス+α

そもそも顧客側でゼロからプロダクトの使い方を決めるのは、通常非常に難しいと思われます。このため、おそらくどの企業も、自社プロダクトを活用する際のベストプラクティスを用意しているはずです。

ただ、ユーザーの既存の業務フローとの連続性を意識する場合、どうしてもベストプラクティスにそのままではフィットせず、少しベストプラクティスをアレンジすることが必要な場合もあるでしょう。カスタマーサクセスとしては、このラストワンマイルに当たる「ベストプラクティスのカスタマイズ」のパターンを用意しておく、または顧客と一緒に考えるといったアクションが必要になります。この部分はプロダクトと顧客双方の深い理解が必要である一方で、CSMとしては必須のノウハウと言えるでしょう。

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ちなみに、こういった各社ごとのカスタマイズされたベストプラクティスの作成は、別途プロフェッショナルサービスと称して有償サービスと位置付けている企業もあります。筆者の場合は、個社ごとにカスタマイズしたマニュアル作成をサポートする中で、細かな業務フローについて他社の類似した事例を引用しつつ、同社にフィットするプロダクトの使い方をアドバイスすることを実施しています。

「導入作業中の導入に関わるメンバーの調整」においてCSMができること

社内でうまくいきそうなチームから味方につける

今から導入しようとする企業の中で、自らが推進する立場ではない場合、どうしても人間は変化を嫌い、新たなSaaS導入にネガティブな反応をする方をするケースも少なからずあります。

この場合、いきなりこうした方を巻き込もうとしても、その方の意識を変容するきっかけがない以上、上手くいかない可能性が高いです。CSMとしては、この方を説得するのは最後に回し、まずは成果を出せそうなチームを見つけ、そのチームだけでスモールスタートし、そこで成果を出す(導入してうまくいきそうだという道筋を見せる)ように促した方が良いでしょう。成果が出せればロジカルな説得材料が得られるだけでなく、成果を出したチームを味方につけられるので、当初導入に協力的ではなかった方を巻き込みやすくなります。

企業の方針とシンクロしていることを示す

特に導入推進者(チャンピオン)がボトムアップで、他のチームも巻き込もうとする場合、他のチームのメンバーからすると「当該導入部門が楽をしたいだけで、今やる必要性はないのでは?」というネガティブな意見が聞かれることがあります。

この場合には、企業の組織の仕組みを活用するのばオススメです。つまり、当該SaaS導入プロジェクトは、直近の事業計画で目指そうとしている方向性や中期計画上での目標(例えば、「再現性のある成長を目指す」や「DX化」など)に合致していることを示しましょう。いち部署が会社の目指す方向に合致した取り組みを否定する根拠は基本的にないので、ややパワープレーな感じは否めませんが、導入時の調整も今よりはスムーズにできるようになるでしょう。

組織の構造を理解して、然るべきポジションの方を巻き込む

上記とも関連しますが、残念ながら会社という組織においては、決定権のない担当者(非管理職)クラスだけで物事を進めることは、非常に難しいのが現実です。

このため管理職が立ち上げ期のプロジェクトから目を放し、担当者のみによって駆動する形になってしまうと、最後の最後でのちゃぶ台返しやプロダクト活用の浸透の遅れが発生する可能性が高まります。これが一度起きてしまうと、担当者の気持ちはかなり萎えてしまうでしょう。これはカスタマーサクセスだけで解決する問題ではなく、セールス時点からどれくらい管理職またはそれ以上のポジションの方をプロジェクトに巻き込んでおけるかという問題でもあります。

筆者にも、顧客の担当者の方がとある問題に散々苦しんだにもかかわらず、管理職同士の会話になった途端にすんなり解決してしまったといった経験が(ベンダーの立場でもユーザーの立場でも)ありました。CSMとしても、なるべく管理職ポジションの方へのパイプを持っておき、要所ではそれらの方とコミュニケーションを取れる体制を作ることが望ましいです(もちろん手を動かすのは担当者なので、その立場をも尊重した振る舞いは必要ですが)。

まとめ

ごく一部ですが、自分がカスタマーサクセスとして、顧客や案件に向き合う中で少しでも顧客の体験をよくするための「答え」の一部を記載しました。

特にBtoBSaaSの場合には、組織の力学が非常に重要な要素を占めることが特徴として挙げられます。なるべく苦労せずにスムーズな導入を進めるためには、チャンピオンだけでなく、CSMも顧客の会社のことをよく知っておくことが必要になるでしょう。細かく考えていくといろいろなバリエーションはあるのですが、少しでも参考になれば嬉しいです。