- カスタマーライフサイクル、カスタマージャーニーの意味
- SaaSにおけるカスタマージャーニーの具体的な内容とポイント
はじめに
みなさん、こんにちは!
本記事では、カスタマーライフサイクルをベースに、サクセスを達成するためにも重要な「カスタマージャーニー」についてまとめています。
カスタマーライフサイクルとは何か
カスタマーライフサイクル(Customer Lifecycle)とは、各顧客が製品やサービスの購入前後で経るステージを分類したものです。
売り切りの製品であれば、購入前までの一連のステージを指しますが、リテンション、サブスクリプションモデルの SaaS の場合は、契約後のカスタマーサクセスが伴走するステージも広く対象となります。
このように整理しておくことで、各顧客の状態を分析的に把握することができます。このカスタマーライフサイクルは、カスタマーサクセスをはじめとした、SaaSベンダー側の管理の便宜のための概念という印象が強く、実際に「ライフサイクルマネジメント」という言葉が非常によく使われます。
カスタマージャーニーの意義と効果
カスタマージャーニーとは
上記のライフサイクルを管理しようとする場合、具体的に、顧客がどのような道筋を経て各ステージに移行していくのかを知らなければ、ライフサイクルを整理したとしても、ただ顧客を分類するだけで、次のアクションに繋がりません。ここで、顧客の体験を整理した「カスタマージャーニー」の考え方が必要になるわけです。
カスタマーライフサイクルとの関係性は?
多くの場合、カスタマーライフサイクルとカスタマージャーニーは、同じものと表現されることが多いです。ただ、後述するようにカスタマージャーニーは、カスタマーライフサイクルを前提として、これを顧客の体験や心情から整理しなおした、より顧客目線の「顧客の体験過程」と表現できるかもしれません。
カスタマージャーニーを定義する理由
特に、シリーズAのフェーズを超えてくるあたりで、PMF(プロダクトマーケットフィット)を実感し、企業としてさらなる成長が期待されます。この際に、セールスによる新規受注は勿論のこと、カスタマーサクセスも既存の顧客に対して、エクスパンションやアップセルでより売上を積み上げ、ARRを伸長させることが必要になります。
この際、ことカスタマーサクセスには、顧客の個性によらずになるべく予測可能性があり、再現性高くエクスパンションやアップセルを達成することが求められます。これに役立つツールが、模範的な顧客の体験を、ライフサイクルのステージごとにまとめたカスタマージャーニーとこれをまとめたアウトプットとしての「カスタマージャーニーマップ」になります。
本来は契約に至る前、つまりプロダクトを認知するところから、ジャーニーは始まりますが、この記事では、カスタマーライフサイクルのうち、特に CSM が関わる、契約後の顧客がたどるステージに絞ってまとめていきます。
カスタマージャーニーとジャーニーマップ作成の例
上記の通り、カスタマージャーニーを重視する目的は、模範的な顧客の体験の変遷を可視化することにあり、これによって各顧客のライフサイクルが適切に回っていくことの再現性を高め、また仮に適切に回っていない場合には、そのボトルネックを特定することを容易にすることができます。
このため、各フェーズにおいては、そのフェーズの状態を定義するとともに、その状態になるためのマイルストーンとなるイベントを定めておくと良いでしょう。その際に役立つコンテンツなどの顧客とのタッチポイントも一緒に定めておくと、更にCSMとしてのアクションも具体化しやすくなります。
①導入(オンボーディング)
◆このステージの概要
ここでは、プロダクトやサービスを活用する中で、顧客に小さな成功を体感し、プロダクトの活用を軌道に乗せるステージになります。オンボーディングプロセスにおける具体的アクションについては、以下の記事にまとめています。
オンボーディングプロセスの全体設計に必要なアクション オンボーディングプロセスの固定施策の例 はじめに みなさん、こんにちは! 今回は具体的に、カスタマーサクセスにとっての重要業務である、カスタマーオンボ[…]
◆次のステージへの移行時のマイルストーン
この後に控えるのは、「積極活用(アダプション)」で、このプロダクトを活用することが当たり前の状態にしていく必要があります。勿論プロダクト活用の事前準備は完了していることが必須となります。このため、
- オンボーディングプロセスが完了している
- プロダクトの基本機能について十分理解している
といった要素が次のステージに進むには、必要になるでしょう。
◆役立つタッチポイント
基本的には、機能・仕様に関するコンテンツがこのフェーズでは役に立ちます。例えば以下のようなタッチポイントが役立つでしょう。
- チャットサポート
- 初期セットアップマニュアル
- 仕様を解説したヘルプページ
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②積極活用(アダプション)
◆このステージの概要
このステージは、プロダクトの利用が軌道に乗り、自走して活用できる段階で、プロダクトが顧客に浸透している状態を指します。
「アダプション」の定義と意義 アダプションの管理のために必要な要素・指標 はじめに みなさんこんにちは。 今回は、オンボーディングプロセスを抜けた顧客が次に訪れる「アダプション」フェーズについて、カスタマ[…]
◆次のステージへの移行時のマイルストーン
この段階では、プロダクトを活用することは当然のことになっていることを前提に、顧客が「もっと良い使い方がないか」を探していることが望ましいです。つまり
- このプロダクトを使って業務をすることが当たり前になっている
- 更に効果が出る方法を知りたいと思っている
といった兆候が見えているということがポイントになるでしょう。なお、前者ではアクティブユーザーが安定しているなどの指標、また後者では「よりエキスパート向けのコンテンツの閲覧数」といった指標を用いることで、これらのマイルストーンにたどり着いているのか、より計測可能な状態になります。
◆役立つタッチポイント
より深くプロダクトを使っていき、更に大きなサクセスの達成を目指す段階になるため、使い始めの段階ではあまり目を通さなかったかもしれないコンテンツが顧客の目に留まるように設計すると良いかもしれません。例えば、
- 他社のサクセス事例
- ナレッジ系のコンテンツ
- ユーザー会などの交流イベント
といったようなより具体的ケースを想定できたり、他のユーザーの知恵を環流させるような機会が有用でしょう。
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③契約更新(リニューアル)
◆このステージの概要
ここでは、契約期間満了をむかえてもなお、これからもまだ使いたいと思い、契約を継続してもらうステージになります。ここを越えられない顧客は、解約(チャーン)するということになります。
◆次のステージへの移行時のポイント
プロダクトによっては、ここからアダプションのフェーズに戻り、従来通りの契約プランで更新を続ける企業も多いのではないかと思います。一方でそこから一歩進んで次のステージに至る、つまり従来の契約よりもより多くの金額を払いたいと思うためには、更に何か解決したいと思う課題を顧客が認識している状態が必要になります。
- プロダクトによって現状の課題は解決されたが、次に解決したい課題が顕在化しつつある状態
- プロダクトだけでなく、これを提供している企業に対しても信頼がある状態
といった形で、現状には一定程度満足はしているが、更に先に進みたいと思ってもられるかが重要になります。
◆役立つタッチポイント
新たな課題が存在することに対して、これを解決する具体的手段があることを伝えることが重要になってきます。
- 顧客との定例ミーティング
- 新機能を活用したサクセス事例
といったタッチポイントを用意することで、顧客は次の課題にフォーカスしやすくなります。
④契約拡大(アップセル・クロスセル)
◆このステージの概要
従来の契約に追加して、上位プランを契約したり、新たな製品を購入することで、顧客が新たなサクセスに向かって走り出すタイミングです。カスタマーサクセスからすれば、企業の収益に直接的に貢献する瞬間とも言えます。
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◆次のステージへの移行時のポイント
次のステージ(ロイヤリティ)に至るためには、これまでと少し毛色の違うアプローチが必要になる可能性があります。つまり、次のロイヤリティのステージに行くためには、ただ「仕事で使って便利だった」といった感情では足りません。各ユーザーに、より人間的な感情を呼び起こしてもらう必要があります。
- 業務として活用するプロダクトとして申し分なく、このプロダクト自体が好きである。
- プロダクトを知らない方にも、そのプロダクトの良さを伝えたいと思う状態
後者については、NPS®️のスコアが高水準であるか、といった評価基準を設けることができます。
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◆役立つタッチポイント
こういった「好き」という感情やこのプロダクトを使うユーザーをもっと増やしたい、もっと便利に使ってもらうことに貢献したい、といった感情を育むためには、より顧客とのコミュニケーションを密に実施していく必要があるのはもちろんですが、顧客がそういった感情を高めたり、発信できる機会を用意できると良いでしょう。具体的には、
- コミュニティイベント
- プロダクトの背景を伝えるコンテンツ
などが有用と思われます。
⑤愛着(ロイヤリティ)
◆このステージの概要
紹介や口コミなどで、次の顧客へと繋がる機会を創出し、いわば潜在顧客(リード)が自然増殖する状態です。推進担当者が転職することなどによって、会社から会社へと紹介が発生することもあります。
ここが事実上のライフサイクルの最終ポイントになり、ここまで至ることができる顧客をどれだけ増やせるかは、カスタマーサクセスだけでなくプロダクトを含めた究極的な目標となるでしょう。
まとめ
ここまで、カスタマーライフサイクルをベースとして、顧客のカスタマージャーニーをまとめてきました。
もちろん実際の顧客は、このように「単線的」にはステージを移動することは少なく、ステージを飛ばして先に進んだり、ひとつ前に戻ったりということが多く発生します。ただ、このカスタマージャーニー(マップ)は、あくまで模範的な形であり、CSMとしては、ここから外れた顧客に対してどういった打ち手を用意しておけるかが重要です。
筆者もまさにそうだったのですが、一度整理しておくと、顧客の体験の全体像を俯瞰して把握することができるので、是非作成してみることをオススメします!