どうやって使い分ける?3種類のチャーンレートの意義と計算方法

  • カスタマーサクセスにとって重要な3つのチャーンレートの内容
  • 3つのチャーンレートの意味と計算方法
  • 3つのチャーンレートの使い分け方

はじめに

今回はカスタマーサクセスの活動の上で非常に重要な要素であるチャーン(解約)の状況を見える化するKPIとなる、3つの「チャーンレート」を、その意味と計算方法、使う場面をまとめました!

カスタマーサクセスに必要な指標の全体像はこちら!

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3種類のチャーンレート

「チャーンレート」とは、「解約率」を指しており、その名前のつく指標には、大きく以下の3種類があります。

  • カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)
  • グロスレベニューチャーンレート(Gross Revenue Churn Rate)
  • ネットレベニューチャーンレート(Net Revenue Churn Rate)

契約形態によりますが、 SaaS のビジネスの場合には、月単位で契約数や金額が変動するため、月毎にトラッキングすることを基本とするのが良いでしょう。以下でそれぞれ詳述します。

導入社数に関するチャーンレート

カスタマーチャーンレート

この指標では、導入企業数ベースで、解約している企業の割合を把握することができます。
ロゴチャーンレート(Logo Churn Rate)やアカウントチャーンレート(Account Churn Rateという呼び方をすることもあります。

計算方法は以下のようになり、0-100%の間の数字で表されます。

(当月内で解約した企業数/当月初に契約していた企業数)×100

仮に後述する MRR ベースのチャーンレートが低水準で抑えられていたとしても、カスタマーチャーンレートが高い場合には、一部の顧客層において再現性のある解約理由が存在することが予想されることになります。また、導入した顧客数がまだ少ない初期フェーズにおいては、1件の解約の影響が大きいため、カスタマーチャーンレートはやや不安定になりがちです。

レベニュー(収入)に関するチャーンレート

ここでは大きく2つの指標を紹介します。以下の事例に基づいて紹介します。

月初時点でのMRRは100、月内の解約された金額は20、月内の増加した金額は50、というケース(単位は略)

グロスレベニューチャーンレート

この指標は、収益ベース(主にMRR)で、カスタマーチャーンレートと異なり、ダウンセルも含んだ収益の減退状況を把握することができ、一般に「チャーンレート」と言われるのはこの指標になります。
バケツの底に穴が開いていないか?というSaaSにとって重要なリカーリングモデルが機能しているかを見ることができます。

特にシリーズAラウンドの調達前後の段階で、新規MRRの獲得が非常に好調でも、このチャーンレートが非常に高いと、時価総額の評価にも大きく影響するでしょう。BtoBSaaSだと月次チャーンレートで2%を切ることが一般的な水準として求められるといわれます。

単月でのグロスレベニューチャーンレートの計算方法は以下のようになり、0-100%の間の数字で表されます。

(当月内で解約されたMRR)/(当月初時点でのMRR)×100
今回のケースであれば、20が当月内で解約されたMRRに相当するので、
【20/100×100 = 20%】
という計算結果となります。
BtoB企業のチャーンレートの目安は?

著名なBtoBのSaaS企業は、グロスレベニューチャーンレートを公開していることが多く、その数字は、平均的に見て、以下の通り2%未満に抑えられています。この数字をまずベンチマークしておくと良いでしょう。

日本発SaaS企業のチャーンレート
・マネーフォワード:1.5%(ただしカスタマーチャーンレート)
・freee:1.3%
・Sansan:0.65%
・SmartHR:0.40%
・HENNGE:0.27%
※2022年5月時点で公開されている情報に基づいています

ネットレベニューチャーンレート

こちらの指標は、MRRベースで、単に解約を防いでいるという守りの視点ではなく、CSが収益の拡大、成長に貢献しているかを見る指標になります。言い換えると、カスタマーサクセスの活動だけで前月と比較してきちんとMRRが伸びているのかを把握することに用いられます。主にCSの活動の評価に用いられる指標と言えるかもしれません。

こちらの指標も常に重要ですが、シリーズB以降でより再現性ある成長を目指す中で、(アップセルまでカスタマーサクセスが主管している場合には)CSの活動指標として重要性が高まります。

計算方法は、以下のようになり、単位は%で表されます。

(月内で解約されたMRRー月内で増額したMRR)/月初時点でのMRR×100
計算してみるとわかりますが、チャーンした金額よりも増加した金額が大きい場合、結果はマイナスになります。これを「ネガティブチャーンの状態」と表現します(「ネガティブ」とありますが、増収している状態ですので指している状態はポジティブです、わかりにくいですね…)。
今回のケースであれば、20が当月内で解約されたMRR、50が当月内に増加したMRRに相当するので、
【(20-50)/100×100 = -30%】
という計算結果となります。
なお、同様にCSの収益拡大への貢献度合いを表す指標として、 NRR と呼ばれるものあり、昨今では、こちらの方が利用するケースが多いと思われます。詳しくは下記の記事をご覧ください。
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まとめ -結局どのチャーンレートを活用すべきなのか-

結論としては、いずれのチャーンレートも非常に重要な指標のため、全てについて月次でトラッキングするのが望ましいといえます。

特に、カスタマーチャーンレートとグロスレベニューチャーンレートは、CSの活動のうち、SaaSのビジネスモデル自体の健全性を表現する指標になるため、アーリーフェーズの時点でも投資家からも必ず開示を求められる重要な指標と言えるでしょう。

グロスレベニューチャーンレートと LTV の関係性は?

サブスクリプション(リカーリングモデル)の場合、グロスレベニューチャーンレートを活用してLTV(Life Time Value)を算出することができます。具体的な算出方法は以下の通りです。

LTV = 顧客平均単価(ARPU)/グロスレベニューチャーンレート

他方で、ネットレベニューチャーンレートは、チャーンとアップセルが内包された指標になるため、これだけを指標化すると、実際の状況を見誤る可能性があるため、注意が必要と言われます。

それぞれの場面や課題感に応じた指標の活用ができるようにしていきましょう!