- NPS®︎の基本的な意味と算出方法
- NPS®︎の活用方法の具体例
- プロモーター獲得成長率の意味と算出方法
はじめに
みなさん、こんにちは!
今回は、 SaaS においてロイヤリティを計測したり、継続的な成長の可能性を測る重要指標である「NPS®︎」(Net Promoter Score)の内容やその使い方について、まとめてご紹介していきます。
NPS®︎の全体像
定義
NPS®︎とは、ベイン・アンド・カンパニーによって創出された「企業がいかに顧客を大切に扱っているか、顧客ロイヤリティをうまく生み出せているかを測定する」(引用元:フレデリック・F.ライクヘルド、ロブ・マーキー著『ネット・プロモーター経営 顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』プレジデント社、2013年)ための指標です。
現在では、米国フォーチュン1000のうち3分の2以上の企業が活用していると言われ、SaaSだけではなくあらゆるビジネスで重要とされています。
NPS®︎の意義
NPS®︎の概念が生まれた背景には、従来のいわゆる「顧客満足度調査」では、必ずしも顧客の継続購入や推奨との間に相関関係が見えず、顧客ロイヤリティを測る指標を探すという目的がありました。
本当にそのサービスやプロダクトを気に入っているならば、当人たちが大切に思う近くの方に薦めるはずだという仮説のもと、これに当てはまるかを端的に問いかけるNPS®︎は、従来からのビジネスは勿論のこと、リカーリングモデルによって継続的な顧客との関係性構築を前提とするSaaSのビジネスにおいて、成長可能性を示すための重要な意味を持つものとなっています。
NPS®︎の算出方法
NPSでは、上記の質問に対して、回答者に0〜10の11段階で答えてもらいます。
そして、この質問で回答された数字に基づき、回答者を3つのグループに分けて、それぞれの全回答者に対する回答割合を計測します。
10,9点:推奨者(Promoter)
8,7点:中立者(Passive)
6点以下:批判者(Detractor)
最後に、【(推奨者の割合)ー(批判者の割合)】を行って算出された数字がNPSということになります。
従ってNPS®︎は最高で100、最低で-100の範囲の数値で算出されることになり、数字が大きい方が、積極的にプロダクトやサービスを推奨し、顧客が顧客を呼ぶ可能性が高くて良い、という評価になります。
日本におけるNPS®︎の特徴とよくある議論
米国企業では、NPS®︎が10-20%の企業は、普通かそれ以下と見なされてしまうようですが、筆者が見ている限り、日本で+10%が叩き出せたら相当優秀だと思われます。この差は、日本人の国民性なのか、自分が良いと思っても必ずしも他人に積極的にお薦めするとは限らないという傾向によって現れているものと言われます。このため、日本では「8」を回答した方も、「推奨者」に含めるべきではないかとの議論があります。
しかし、筆者としては、基準を変更するのは本当に最後の手段だと感じています。理由は二つです。
まず、NPS®︎ほど顧客の満足度やロイヤリティについて、全世界共通で比較可能な指標がないということです。顧客から良い評価を得たいという前提の思いから、バラつきがちな顧客への問いがNPS®︎によって共通化されることで、国内企業でも海外企業でもわかりやすく自社やプロダクトの置かれた状況を比較できるのが、その一つの大きな価値といえます。
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さらに2つ目として、筆者の感覚としても日本人で10や9をつけてくれる方は、印象として8をつけるユーザーと、自社に対する関係性が大きく異なって見えるという経験則があるからです。言い換えると、8をつけて下さる方も確かにプロダクトへ一定の満足はしているものの「そこ」止まりです。一方で10や9をつける方は、一生懸命自社のプロダクトの最新情報を追ってくれたり、ユーザー会に率先して参加してくれるなど、関わり方が一段階高い水準にあるのではないでしょうか?そのように考えると、仮に日本人に「推奨者」となりうる方が少なかったとしても、NPS®︎が成長可能性を示すための重要な指標たりうるためには、元の指標のままで考える方が良いのではないかと思います。
NPS®︎の活用法-プロダクト改善の糸口に-
前述の通り、NPS®︎調査の質問は非常にシンプルです。
とはいえ実際には、上記の質問に、さらに何問か質問を加えて、調査をより有意義にした上で活用することが多いと思われます。
通常どの調査にも見られるのが、上記のような0〜10のスコアをつけた理由を尋ねる質問です。
なぜそのスコアがつけられたのかを見ることで、より顧客の回答の真意に迫ることができます。特に気になるコメントがある場合には、さらに個別のインタビューをセットすることもオススメです。
勿論この理由を尋ねる質問では、カスタマーサポートやカスタマーサクセスの支援の良し悪しについて言及される場合もありますが、基本的にはプロダクトに関する評価を伴うコメントが多いのではないかと思います。こうした傾向を踏まえ、プロダクトの改善に向けた指標としての活用法が考えられます。例えば、NPS®︎の理由として言及されることが多い機能改善を優先的に実行するイメージです。
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なお、下記の事例では、プロダクトのうちの主要な機能別でNPSを調査する「リレーショナル調査」といったことを実践しています。
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「ネットプロモーター3.0」の時代
NPSの信頼性が危機に?
上記のようなプロダクトの進化に紐づけたNPS®︎の活用法以外に、NPS®︎が各顧客からの評価指標として、そのまま部署や担当 CSM の評価に紐づいている場合があります。こうした使い方を実施した結果として、NPS®︎に恣意的な点数がつけられることが増え、数字が実態以上に上振れし、この指標自体の信頼性を損ねるような事態に発展していることもあるようです。
こうした状況下で、改めてネットプロモーター(推奨者)を見つけ出す仕組みの客観性を上げるため、新たな方法論が見出されました。それが、「プロモーター獲得成長率」というものです。ダイヤモンド社「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー22年7月号」(P77〜「ネット・プロモーター3.0」)でNPSの産みの親であるライクヘルド氏らが提唱しています。
プロモーター獲得成長率の算出方法
これは、既存顧客の紹介による新規受注も含めてどれくらい既存の顧客から新しいMRRの積み上げがあったかを見る指標で、実際に増加したMRRによって指標の良し悪しが決まる点で、客観性が高い点が特徴です。算出方法は、 NRR とENC(Earned New Customer、既存顧客の紹介による新規顧客)の割合を用いて、以下のように行います。
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実際に日本ではまだ指標として活用しているケースはまだ少数ではないかと思われますが、ロイヤル化した顧客が新規顧客を連れてくるというカスタマージャーニーを体現した指標であることから、従来のNPS®︎との相関関係も併せて、今後気になる指標です。
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まとめ
お読み頂きありがとうございます。
従来からNPSは、顧客のいわば感情的な部分を炙り出して定量評価できる、非常に重要な指標と考えられていました。もっともこの指標も万能ではなく、機能不全を起こすこともあったようです。
こうした流れの中で登場した「プロモーター獲得成長率」は、実際に既存顧客がどれくらいのMRRを直接または間接でもたらすことができたのかを見る、シビアな指標です。実際に運用しようとした場合、リードソースが既存顧客からの紹介によるものであることをきちんとタグ付けしておく必要があるため、THE MODEL(ザ・モデル)の上流からきちんと整備する必要がありますが、筆者も挑戦してみたいと思う指標でした!